SSブログ

『シャルビューク夫人の肖像』 ジェフリー・フォード/著 [外国人作家]

シャルビューク夫人の肖像

シャルビューク夫人の肖像

  • 作者: ジェフリー・フォード
  • 出版社/メーカー: ランダムハウス講談社
  • 発売日: 2006/07/20
  • メディア: 単行本

表紙のサージェント「マダムXの肖像」。
この絵に惹かれて手に取りました。

19世紀末、ニューヨーク。
主人公は肖像画を生業にする画家・ピアンボ。
ある日彼の元に、奇妙な盲目の男が訪ねて来ます。
彼の主人の肖像画を描いて欲しいというのです。
案内された屋敷で対面した依頼主は屏風に隠されて姿が見えません。
「シャルビューク夫人」と名乗った依頼主は、画家に「自分の姿を見ずに」肖像画を描いて欲しいと依頼します。

世紀末にふさわしく、ミステリアスな女性の語る荒唐無稽で魅惑的な物語に、主人公の画家同様、翻弄されました。

以下少々ネタばれです。


19世紀末、写真の普及により誰でも自分の「肖像」を簡単に手に入れられるようになっていた。
金持ちが虚栄心を満足させるため皮肉にも「肖像画」の価値が再び見直され、もてはやされた時代。
ある程度の腕前を持っていれば、肖像画家は実入りの良い職業だった。

姿を見ないで夫人の姿を描き出す事ができたら相場の数倍の報酬を支払う、という奇妙な依頼を、売れっ子の肖像画家ピアンボは承諾する。
その金があれば、肖像画を描かずに自らの芸術探求に専念できるからだ。

ピアンボは毎日1時間だけ、屏風ごしに夫人と話す事ができた。
彼女の声、衣擦れの音、話の内容、そして言葉の端々からどうにか夫人の姿を思い描こうとするが、上手くいかない。

彼女の話は、荒唐無稽でおよそ現実味がない。
しかし話を聞くうちに、知らず知らずピアンボは、顔も見たこともない夫人に魅せられのめりこんでゆく。
そして、彼女の夫だと名乗る男が現れるとほぼ同時に、肖像画家として順調だった彼の人生も少しずつ狂い始める・・・。

シャルビューク夫人という存在自体をはじめ、謎だらけの不思議な物語です。
あとがきを読むと、この作者は『白い果実』という作品で幻想文学の賞を取っているそうで、さもありなんと思わされる怪しげで幻想的なエピソードがあちこちに伏線として散りばめられています。

結晶言語学者だった父親。
予言者だった彼女。
一夜で全財産を失った哀れな男の話。
大金持ちとその占い師たち。
目から血の涙をながす奇妙な病気。
ナツメグの香り。

シャルビューク夫人とは何者なのか?
謎の奇病の原因は?
シャルビューク夫人の夫の真の目的は?
ピアンボは夫人の肖像を描き上げることができるのか?

謎が謎を呼び、ピアンボと同様に疑心暗鬼になりながらも、終盤に向けて物語が収束していく部分は一気に読み終えました。

原著はどうなのかはわかりませんが、この表紙に使われている「マダムX肖像」はベストチョイスだと思います。
サージェントがこの絵を発表した当初、実在の人妻を描いたにしては官能的過ぎると、スキャンダラスな評判を取った作品です。
元々の絵は「肖像」ですから顔の上部分も描かれています。
あえて顔半分を見せないことで、謎めいた女シャルビューク夫人を喚起させますが、黒いドレスが同時に冒頭で主人公が肖像画を描いたリード夫人の姿も思わせます。

この物語の冒頭は、ピアンボが描いたリード夫人の肖像の完成披露パーティーから始まります。
リード夫人は人より少しばかり存在感のある鼻と個性的な口元を持った女性。
ピアンボは、その彼女の特徴ある部分を見事な筆づかいで描き、「世間並みの美人」として仕上げていました。
このパーティーで、肖像画と全く同じ服装をして現れたリード夫人が肖像画を見上げたままその傍らから離れないのを見て彼は、そうしていれば肖像画のように美しくなれるのではないか、そのように人が見てくれるのではないか、と夫人が思っているのではないかと想像します。

なんて無神経で傲慢な考えでしょう。

誰だって、たまたま撮った写真が実物よりも綺麗に撮れていたら素直に嬉しいと思いますが、思いっきり修正されていたら、やはり良い気持ちはしないものです。
むしろ「お前は美しくない」と突きつけられたようで深く傷つくでしょう。

リード夫人は浮気性の夫に苦しめられている女性です。自分よりも若く美しい女性に夫がうつつを抜かすのを、子供と世間体のために辛抱しています。
けれど、ピアンボだけでなく(彼女の夫も含めて)パーティーに出席している人みんなが、彼女が傷ついているという事に思いも寄らないのです。

ピアンボは芸術家で、女優の恋人をもつ男性です。

この話は、そんな女性の見た目の美しさに価値を見出していた芸術家の男が、顔も見たこともない女に魅了され、翻弄される、という話でもあります。

女は顔じゃないのよ。


nice!(1)  コメント(2) 
共通テーマ:

nice! 1

コメント 2

ランランラン太郎

あまり外国の小説は読まないので興味深く読ませていただきました。
女は顔じゃない、けどやはり選別はされているような気がしますね。
といいつつパッと見ハンサムなほうが私も好きですが・・・
by ランランラン太郎 (2007-04-03 09:17) 

shiori

ランランラン太郎様
鑑賞するなら私も美しい方が好きです。美男美女大好きです(^^)
しかし、現実の我が身に重ねてみると・・・(>_<)
外見か内面かどちらで評価して欲しいかというと、やはり内面を見て欲しいな〜と思うのです。
でも選別は・・・やはりされているでしょうね。
by shiori (2007-04-03 21:45) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。